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ぼくがかんがえるさいきょーのじこちゆせらみっくす            さんねんせい せきね

 どこにも書くところがないけれど,文章にしたかったのでここに投稿しておきます.内容は,博士論文を執筆する際に考えていた哲学についてです.かっこつけて哲学と言ってますが,ようは自己治癒セラミックスに関する僕の世界観のことです.


自己治癒セラミックスは現状,酸化反応を治癒機能に昇華したものが活発に研究されています.代表例はSiCの酸化反応で,SiC+3/2O2→SiO2+COで生じる体積膨張により部材のき裂を修復し,健全な状態に戻して再度使用できるといったものです.この酸化反応は800℃以上の高温下で生じるため,応用先としてはエンジン等の内燃機関が有望視されています.しかしながら,それ以下の温度域,例えば我々の生活温度である室温で治癒機能を発現するセラミックスは存在しません.(エネルギーを投入することで達成した関野らの例はあるにせよ)


サステナブルな社会を目指す現代において自己治癒機能はあらゆる環境下(応用先)で求められるものです.では,自己治癒の応用先を増やすためにはどうしたらよいでしょうか.一言で言えば,自己治癒エージェントの数を増やしていくことです.自己治癒セラミックスは,化学反応を機能として用いています.その反応を引き起こす物質,先ほどの例だとSiCを「自己治癒エージェント」と呼びます.この治癒エージェントが増えることがそのまま応用先が増えることにつながります.例えば水和反応などの水が関与する反応を治癒機能として用いることができれば,水が存在する環境下例えば風呂場やトイレ,キッチンなどで治癒機能を発現させることができます.しかしながら,治癒エージェント開発の指針は一般化されておらず,エージェントの数を増やすことができないといった現状があります.


エージェントをどうやったら設計し創り出すことができるのか?ということがこの6年間僕が考えてきた内容であり,博士論文の骨子です.僕は化学反応が再結合を含み,動的であるという原理原則から出発してエージェント設計指針の一般化を試みました.


僕はあらゆる化学反応が治癒のポテンシャルを持ち,エージェントとなり得ると思っています.なぜなら,化学反応とは一言で言えば結合の組み換えであり,再結合を本質的に含むからです.ではなぜ現在,酸化反応以外の反応を治癒機能として用いることができていないのでしょうか.それは,再結合すなわち治癒の因子だけでなく,様々な要因による阻害因子(あるいは劣化因子)が存在しているためであると考えています.強度は結合だけでなく組織や微細構造に強く影響を受けるのでそういったものが劣化因子に相当します.(ここで治癒は強度回復の意味で用いています.)

化学反応にはもう一つ重要な本質があります.それは,あたりまえですが化学反応が動的であるという点です.反応が動的であるゆえ,治癒因子と阻害因子には速度論的な競合が生じており,一般的に阻害因子が治癒因子を上回るため治癒機能として用いることができないのであろうと思います.したがって,治癒因子と阻害因子の速度論的な解析を行い,治癒因子を促進するもしくは阻害因子を抑制することが一般的な指針となりうるのだと考えています.治癒因子については,吉岡らによって生成物と母材との化学的親和性などの観点から議論されていますが,その速度論的解析や阻害因子との競合については議論の余地が大きく残されていると感じています.


エージェントの設計指針が一般化されると,単に応用先が増えるだけでなく,さらに先進的な材料を生み出すことができます.例えば,複数のエージェントをあらかじめ内包させておくことで生き物のように環境対応する材料が創り出せます.また,機能同士を連携させることも可能です.例えば,比較的低温で反応し発熱する反応をスタートとして,反応温度がより高い反応を生じさせ,さらに発熱させるということを繰り返すといずれ非常に高温となり,素早く治癒させることができるようになります.


そんな材料を夢見て研究を続け,博士論文にまとめました.後輩の博士候補たちも自分が創り出したい世界や夢を持っていると楽しく研究ができるのではないかと思います.大きな夢を持ち,原理原則に立ち返ってその夢の実現を目指す.工学あるいは学術とはそういうモノかななんて思ったり.とにもかくにも博士楽しかったぁ.


おわり.


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